東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)263号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び引用例に審決認定の記載があることは当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
(一) 当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲には、「溝側面にして水平折曲面の裏側には可撓管巻取金との間に中央部溝の高さ以上の寸度の芯金を介在せしめてはぜ継ぎすべく……はぜ折りせしめ後、芯金を引抜いてなる……可撓管の製法」とのみ記載されているにとどまり、芯金の断面形状についてこれが方形のものであるなど特段の限定がないことが明らかである。
(二) 原告は、(1)本件明細書の発明の詳細な説明の項及び図面には一貫して芯金の断面形状が方形のものについてのみ記載されていること、(2)芯金は断面形状が方形であることによつてはじめてその作用を果たすものであるから、本件発明における芯金の断面形状は方形のものに限定される旨主張するので、以下この点について順次検討する。
(1) 成立に争いのない甲第二号証(本件発明の特許公報)によると、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、<1>芯金についての一般的説明として、原告が主張するとおりの記載すなわち、「本発明に於ける上下反対方向に折曲せしめられた折曲面を螺旋状に下向折曲面を上向折曲面に重合し、この重なり部を水平折曲面に押し倒してはぜ継ぎする加圧作業に当りては他の溝部分も共に押潰されることを防止するためにこの溝の側面と水平折曲面の裏側空間位置には溝の高さより少しく大なる寸度の直径の芯線を帯金を螺旋状に巻付ける際同時に巻付けて配置してこの押倒しの加圧作業をなすものであるから溝部分が加圧加工により同時に押潰されることを防止しうるものである。」(公報二欄九~一九行)との記載及び<2>右記載に引き続き、「又この芯線は溝と溝との間に組込まれるものであるから可撓管の仕上り後は管口より容易に抜取りうるものである。」(同二欄一九~二一行)との記載、<3>実施例に関する説明として、「溝2と折曲面3´の空間に介在する断面形状の芯線5」(同三欄一~二行)、「……芯線5を引き抜き仕上げる。」(同五~六行)、「……芯線5が同時に巻付けられる……」(同九~一〇行)、「……芯線5を引抜いてから……」(同四欄二~三行)等の記載、<4>図面には別紙のとおり芯線5として断面形状が方形である芯金の記載がそれぞれ認められる。
(2) しかしながら、本件発明の芯金に関する一般的な説明である<1>の記載をみても、芯金の断面形状が方形のものであることを直接明らかにした記載部分はない。却つて「溝の高さより少しく大なる寸度の直径の芯線」における「直径」の語は、通常、「円(又は球)の中心を通過して円周(又は球面)上に両端を有する線分」の意味に用いられるものであることからすると、特段の事情がない限り右記載からは芯金(なお、右記載中の「芯線」は「芯金」と同義であると認められる。)の断面が円形のものをも想定しているものと解されないではない。また<2>の記載をみても、可撓管の仕上がり後に芯金を抜取るについて、その断面形状が円形である場合に方形のものと対比して特に困難を伴うことを明らかにした記載部分はなく、他にこのことを認めるに足りる証拠はないから、<2>の記載から、芯金の断面形状が方形のものに限定されるとは到底解されない。更に<3>、<4>の記載は、前記のとおり本件発明の実施例に関する記載であるから、この記載から直ちに右の限定的解釈ができないことはいうまでもない。
(3) 次に、芯金の目的ないしその果たす作用について検討するに、本件発明の特許請求の範囲及び前記<1>ないし<4>の記載によると、本件発明における芯金の目的ないし作用は、長尺帯金の下向折曲面を上向折曲面に重合してはぜ継ぎする加圧作業の際に溝側面にして水平折曲面の裏側に所定寸度の芯金を介在させることにより、右加圧力をこの芯金によつて支持し、右加圧力によつて溝部分が押潰されることを防止することにあることが認められ、明細書中芯金については前掲以外の記載がないので、芯金の目的ないし作用は右の点に尽きるものと解される。
そうだとすると、前記はぜ継ぎの際溝の高さ以上の寸度の芯金が所定位置に介在することにより溝部分の押潰し防止の目的、作用が達成されるものであるから、その断面形状が特に方形のものでなければならないとは解されない。このことは、本件発明の芯金に相当する引用発明における軟金属線(軟質金属丸線)の断面形状が円形であることは当事者間に争いがないところ、前記審決認定の引用例の記載によれば、引用発明の軟質金属線ははぜ折り(はぜ継ぎ)操作を支持するものであり、本件発明の芯金と同一の目的、作用を果たしているものであることからも明らかである。
(4) 以上のとおりであつて、本件明細書に、芯金の断面形状が方形のもののみについて記載されているものではなく、また芯金の断面形状が方形のものでなければその目的・作用を果たし得ないものでもない。
(三) よつて、原告の取消事由(1)の主張は採用できず、審決が本件発明の要旨を特許請求の範囲のとおり認定した点に誤りはない。
2 取消事由<2>について
(一) 本件発明の芯金に相当する引用発明における軟質金属線の断面形状が円形であることは前叙のとおり当事者間に争いがない。
しかし、本件発明において、芯金の断面形状が方形のものに限定されないものであることは1に判示したとおりである。従つて本件発明は、芯金の断面形状が円形のものを含むものであるから、この点で両発明に差異はない。
よつて原告の(一)の主張は採用できない。
(二) 引用発明における押圧ローラーの構造が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
しかし、前掲本件発明の特許請求の範囲には、単に「押圧ローラー」と記載されているのみでその構造については何らの限定がない。そして、前掲甲第二号証によると、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、実施例に関する説明として「重合折曲面4及び4´は水平折曲面3´に押し倒し角材6に沿つて作動する押圧ローラーC、Dにより押し倒して、はぜ継ぎせしめ」との記載(公報三欄二行~四行)、及び「押圧ローラーc、dに半田線7を介在したまま重合折曲面4・4´を水平折曲面3´上に一体的に押倒してはぜ継ぎせしめ」との記載(同三欄末行~四欄二行)があるに過ぎず、また、図面第三図には別紙図面のとおりC、Dとして円形の概略図が示されているに過ぎないことが認められる。そして、本件発明における芯金の断面形状が方形に限定されるものでないことは前記認定のとおりである。
そうすると、本件発明における押圧ローラーは、その構造に限定がなく、溝のない円筒状のもののほか引用発明のような溝を刻設したものをも包含するものであることは明らかである。従つて、押圧ローラーの構造についても本件発明と引用発明との間に差異はないから、原告の(二)の主張も採用できない。
3 取消事由(3)について
原告の主張する本件発明と引用発明との(一)及び(二)の作用効果上の差異は、いずれも本件発明と引用発明との間における芯金(軟質金属線)の断面形状及び押圧ローラーの構造において差異が存することを前提とするものであるところ、1及び2に述べたとおり両発明の間には右のような構成上の差異はない。(なお、前記審決認定の引用例の記載によると、引用例の軟質金属線ははぜ継ぎ後管内に残すか又は取り除くことができることが明らかであり、これを取外すことが困難であると認めるに足りる証拠はない。)
よつて原告の取消事由(3)の主張はその前提が誤つているものとして採用できない。
4 以上のとおり原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決には違法の点はない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編註〕 本件発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
長尺帯金を中央部を適宜幅及び深さの溝となし、この溝の両縁を両側に適宜幅に等しく水平に折曲し、この水平折曲面の両端を適宜長さに等しく互いに上下反対方向に折曲せしめてなる形状に成形し、この下方に折曲した折曲部を上方に折曲した折曲部に螺旋状に重合し、この重合面をはぜ継ぎしてなることにより構成される可撓管に於いて、上下の折曲面を螺旋状に重合してはぜ継ぎするに当たり、溝側面にして水平折曲面の裏側には可撓管巻取金との間に中央部溝の高さ以上の寸度の芯金を介在せしめてはぜ継ぎすべく押圧ローラーによりはぜ折りせしめ後、芯金を引抜いてなることを特徴とする可撓管の製法。